店で部屋に通され、いつもは会話中心なのに今日は歌を入れる。会話するのが怖いし、心が整理できていない。


Hも歌の勉強中とかで西野カナなんかを入れて歌っている。


とは言うものの、何時までも歌い続けるのも限界が来て曲が止まった。シンとする部屋。


いつもと違う雰囲気を感じたのか、Hも少し様子が違うようにみえる。



H「sevenさん、どうしたの?元気ないよ」



S「あぁ、少し考え事・・・」



H「Hちゃんがヤマハを乗らないからですか?」




鋭い。と言うか相変わらずストレートだ。わかっていないように見えたが、それなりに気にしてはいる様子。



結局この話題は避けては通れないようだ。と、同時に、自分の気持ちが堰を切ったように溢れ出る。



S「俺はお金持ちじゃないし、恋人でも無いHにバイクを買うって事は凄く勇気がいる事なんだよ、わかる?」



Hは黙って頷く。



S「1500$だって今日使ってしまったらお店に来る事も、週末に遊ぶ事だって次の給料日まで待たなきゃいけないんだよ」


ただ頷くだけのH。興奮気味に話すsevenを見て、少したじろいでいるのかも。


S「SHじゃなきゃ嫌って俺はそんなお金は持ってないんだよ。3000$ってベトナム人から見てそんなに安いお金なの?」


少し意地悪な事を言ったかなと思った。でも言葉が止まらない。Hは何も答える事は無かった。多分sevenの言いたい事はおおよそ理解しているのだろう。



お前が買える金額なのか?親だってお金が無いから盗難された事に凄く怒ったし、代わりは買ってあげられないと言われたんだろう。どの口がSHとか贅沢言ってるのか。自分の立場をわきまえろ。



流石に言葉にはしなかったが、そんな思いが喉の先まで出かかる。今となっては、そんなきつい事を言わなくて本当に良かったなと思う。



少しばかりの沈黙の後、Hが言葉を発する。



H「ごめんなさい。私・・・SHじゃ無くてもいい。他のバイクでいいです。電動でも何でもいいです。ごめんなさい」




うっすらと涙目になっているH。彼女なりになにか考えていたのだろう。



H「sevenさん、sevenさんはHちゃんを嫌いですか?Hちゃんはsevenさんが大好きです・・・」



S「・・・・・」



S「マジ?・・・」



突然コクられて動揺するseven。いや、簡単には信用出来ない。何せ女の子の方からそんな事言われた事はタイでもここベトナムでも無かったし。


大抵こちらから好きとか愛してるとか言い出してから始まるのがおっさんとレディとの関係。


Hの好意は感じていたが、異性としてのそれかは、わからないままだった。



S「マジ?・・・俺の事を好きって、お客さんだから好きなの?それとも俺の事を愛してるって事なの?」



ここの部分はわかりやすい日本語ではっきりHにも理解出来るよう伝えなくてはならない場面。意味合い一つで怪我し兼ねないのだ。




H「はい・・・好きです」



S「だからどっちwww、HはsevenをLike なの?Loveなの?」



日本語の難しいところを英語でわかりやすくもう一度聞く。それ、凄く大事なところ。



H「Love です」



うお! Love キタコレ!



H「sevenさんはHちゃんの事、好きですか?Loveですか?」



S「ANH YÊU EM(愛してるよ)」



H「本当?前のお店の子とか、タイ人とか恋人居ないですか?」



ちょwww何でタイ人とか知ってるんだ?この子www



S「何でタイ人が出てくるんだよww何で?」



H「だってターさん(最初にこの店を紹介してくれた日本の会社の同僚)がこの前お店に来て、私がヘルプした時に言ってた。sevenさん、タイに恋人沢山いるよって・・・」



ちょwwwあいつ何暴露してんだよwwルール違反だろ〜



S「あいつの言う事は信用しちゃいけないよ。そんな事ばかり言うやつだからね」



そこから暫く弁明する。その間、Hは楽しそうにsevenに身体を預け、頭を肩に密着させて頷く。



sevenの左手と彼女の右手が絡み合い、しっかりと握りあっていた。カラオケ機から待機中に流れるムード音楽が雰囲気を盛り上げる。



S「な、キスしてもいい?」



雰囲気に任せ、思い切って言葉をかける。Hは少し間をおいて、



H「ダメ・・・私キスした事無いの・・・今度でもいい?」



小声で話すH。



S「じゃ、恋人になろう。それならキスできるだろ?俺の事Loveだって言ってくれたじゃん。俺も愛してるから」



その言葉を聞くと、Hは黙ったままコクリと頷く。



ゆっくりと顔を近づけるとHはスッと目を閉じる。ほんの2秒程度。彼女の唇の赤いリップがsevenの口から離れる時に一瞬だけ粘着してパッと離れる。


虚ろな目。恥ずかしそうに視線を下げるH。もう一度キスしようと顔を近づける。



H「ダメ・・・恥ずかしいよ。今度ね・・」



急に立ち上がり、部屋にあるトイレに向かい、鏡で顔をチェックするH。戻ってくるとグラスに氷を入れたり、焼酎を足したり灰皿を片付けたりと、いそいそ忙しない。


明らかに先程のキスに動揺しているH。以前から勉強ばかりで今まで彼氏が居なかった事、キス経験も無い事を聞いてはいたが、本当にそんな感じだった。



S「おい、いいからこっち座れよww」



Hを再び隣に座らせ、バイクの話をする。自分の気持ちが晴れたせいと、進展した関係に上気づくseven。怖いもの無し!とはこの事か。



S「1500$は渡すからそれで買える好きなバイクを選べばいい」


H「はい!ありがとう。でもヤマハじゃ無くてホンダのにする。燃費が全然違うの」



S「本当かよwwヤマハだってスズキだって日本のメーカーだし、変わらないと思うよ」



H「ううん、絶対ホンダが一番。ガソリン代が節約出来るし、壊れない。治すのも何処でもやってくれるしね」



S「壊れないなら治す事も無いじゃんかww」



何時もの生意気も、今は心地良く聞こえる。




S「ま、自分で好きなの買えばいいよ」




H「はい!ありがとう!sevenさん」



こうして、この日Hとの距離がグッと近づき、恋人(一応)となった。


一週間後、ハノイ市内のあちこちで、ホンダのVISIONと言う黒い中古バイクに乗ったHとsevenの姿があるのだった。



切るつもりが恋人になるとか、アメージングVietnamですかね。ビバ!ベトナム!!



つづく