すっかり生温くなったシンハービールをグッと飲み干し、叩きつけるようにテーブルに置く。所々表面が禿げかかった茶色の古びたテーブルから乾いた音が店内を響かせる。




その音にギョっとして隣のテーブルに座っている2人組の女性が目を丸くしてこちらを見る。




さっきからカウンターの前で黒髪の太ったウエイトレスがこちらをチラ見している。不審な奴だと思われてるのだろうか。




口の中にはあの独特なシンハーの苦味と、炭酸が抜けた後味の悪さが広がり、不快指数が更に高まる。




「水をくれ!」




そう頼むと、ノシノシとウエイトレスが歩み寄り、ミネラルウォーターと氷の入ったコップがテーブルに置かれる。




こちらのイライラを察知してか、ウエイトレスは変な愛想笑いを浮かべたあと、ノシノシとカウンターへ引き下がる。




あの浅黒い顔の二重顎と、数日も髪を洗って無いような、変にツヤのある黒髪が俺の不快度を更に上げてくる。




(いかん、いかん、あのウエイトレスは何も悪く無いのに・・・)




直ぐさまコップに水を注いで一気に飲み干す。少しづつ心が落ち着いてきた。スクンビット通りの喧騒と無数のクラクションの音が耳に飛び込んでくる。




腕時計に目をやると、Nokがトイレに立って30分が経っていた。




薄々は気付いていたんだ・・・




Nokは俺から金を受け取った後、トイレに立った。俺は彼女を信じたかった。化粧を直して一段と綺麗になったNokが席に戻ってくると。




Lineを送る。勿論返事は来ない。彼女のLineホームを見る。さっきまで閲覧できたのに既に見れなくなっていた。ここで彼女の意図は確定した。




電話を掛けるのは辞めた。この行為に何の意味も無いことは判っているから。




心臓が高鳴る。それを抑えようと大きく息をする。そしてもう一度コップに水を注いで飲み込む。




「チェックお願い」




「あと、トイレに行く」




カウンターでウエイトレスが計算している横を通ってトイレに行く。俺が座っていたテーブルからは死角だが、トイレの前の通路に出口があり、路地に通じていた。




(ここから出て行ったんだ・・・)




俺はそのまま用も足さずに振り返ってウエイトレスの横まで歩く。




ウエイトレスは450パーツと書かれたメモを見せながら、先程と同じ愛想笑いと聞き取れない早口でトイレの前の出口を指差した。




女に逃げられた一部始終をウエイトレスは見ていたって事だ。さっきからこちらをチラ見していた理由が今やっとわかった。




恥ずかしさと惨めさが一気に込み上げる。500パーツ札をウエイトレスにサッと渡すと釣りも受け取らずに店を出る。




早歩きでホテルのあるソイ19へ向かう。ブアッとした熱気とすれ違うのも困難なほどの人混みを掻き分ける。




早歩きと熱気でまとわりつくような汗が全身から滲み出る。とにかく今はホテルに戻って心を落ち着けたかった。




ルアムチットプラザの前で、がたいの良い女に腕をガシッと掴まれる。異常なほどの力。




俺はその女を睨みつけ、勢い良く腕を振りほどきそのまま歩き出した。女は理解できないタイ語で大声を出して何か言っている。




ソイ19に入った途端だった。見慣れたネオンと屋台が目に入ると同時に涙が溢れてくる。涙を手で拭う事なく声だけ押し殺して真っ直ぐ歩く。




ファミリーマート前の屋台でクィッティアオを食べてるOL風の女性が俺の泣き顔に気付いて隣の友達に俺の話をしている。




もうどうだっていい。ウンザリだ・・・タイに天使なんて何処にも居ない・・・




ホテルに戻り、部屋に入るとベッドに飛び込む。涙が止まらない。そのくらいNokが好きだった。いい歳して声が出る。街中では声は殺せたが、部屋では無理だった。




ひとしきり泣くと移動の疲れと重なっていつの間にか眠りについていた。




そしてタイで8回目の失恋となった。



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