ショッピングセンターの前でタクシーを拾い、行き先を告げる。後部座席に二人は座った。


「・・・・・」


彼女は昔のように僕に密着するように座り、頭を寄せて腕を組むような仕草はどこにも無かった。僕と後部座席の中心から均等な位置に座り、身体を外側に向けたまま、無言で車窓を眺めている。明らかに意識的なのが見て取れた。



もう僕には興味ないの?・・・



そんな気持ちが溢れだし、深いため息だけが車内を支配する。



なぜ、メガネになった事を教えてくれないんだ。なぜ、店を出した事を黙っているのか。なぜ、今日僕が来ることがわかっていて一緒に居る事を優先しないのか。なぜ、なぜ、なぜ・・・



悶々と頭の中を駆け巡る負の感情。怒りを通り越して情けなくなる。これは今までずっと僕に惚れ込んでくれていた彼女だったから、日頃からケアしなさすぎたのか。



思い出すと彼女が僕から離れて行く理由がワラワラと堰を切ったようように湧いて来る。



朝の「おはよう」と「おやすみ」は、ほぼ欠かさずしていたものの、「今日は飲みに行く」だとか、「仕事休みだからパチンコしてるよ」とかの日常の情報発信はは一切しなかった。コンタクトレンズを辞めてメガネに変えた事も。



あ・・今日の彼女と同じだ・・



飲みに行くと言えば、「女の子はいるの?」「何時に帰るの?」「家に帰ったら必ず連絡して!」こんなやりとりがいつしか僕はウザくなっていたんだ。



彼女からのメールを無視して一日中遊び呆けていた事もあった。その、反動なのか。と、ふと考える。



自業自得だ・・・



脳裏に別人からの厳しい言葉を浴びせられるような感覚に、急に寒気が襲って来る。



遠距離恋愛って、深い信頼と日頃逢えなくても好きでいられるだけの絆が必要なはず。それが無ければ長くは続かない。その絆を結ぶ為の努力を僕は怠っていた。そう・・彼女の心変わりなんてあり得ない。そんな気持ちがあったのだ。



日頃からのマメな連絡と愛の確認。これこそが遠距離恋愛のキモであり、欠かせてはいけない事の一つなのに・・・



うっ・・・



自責の念が押し寄せる。彼女が一方的に悪いわけではない。僕だって彼女の心を繋ぎとめることをしなかった結果でもあるのだ。まさに自業自得。



でも・・・



店を出すなんて大事を僕に黙ってるのはいくらなんでも酷いんじゃ無いのか?1ヶ月以上前からこの日に来るって言ってるんだからもっと色々と調整できたんじゃ無いのか?



そんな思いもぶり返してくる。



僕は大事を内緒にした彼女への怒り、彼女を長期間放置した自分への怒り、彼女に手を出したパトロンへの怒り、それを受けてホイホイ店なんか出す彼女への怒り、そして彼女とパトロンとのセックスの妄想。



様々な種類の怒りや想いがごちゃ混ぜになって、何考えてるのかわけがわからなくなる。



「ね、着いたよ?ね?」


「あ、うん・・・」



隣で彼女から声を掛けられるまで、意識は完全に脳内だけに支配されていた。



タクシーを降り、ホテル玄関までの階段を登ると綺麗に磨かれた大ガラスに階段を登る僕と彼女が写し出さらた。



なんつー顔をしてるんだ・・・僕は・・



そこには顔を強張らせ、鬼気迫る表情の自分の姿。こんな表情をした自分を過去見たことが無かった。



チェックインを済ませ、9Fにある部屋に入る。そして彼女をベッドに座らせると問いただすように正面に座った。



彼女の顔も幾分強張り、緊張している。いや、今思えば怖がっていたと言った方が正しいだろう。僕は、完全に冷静さを失いながらも、言葉を選び無機質に質問した。