Seven's Thai & Vietnam

40半ばにしてタイに目覚める。擬似恋愛に憧れるが未だ擬似恋愛した事がないオッサンの哀歌。

ベトナム紀行

Profile:[ seven ]
①結婚していても恋したい
②離れていても愛されたい
③色んな女性と遊びたい
そんなオバカな夢を追い続けるオッサンのThai旅行記。
果たして願いは叶うのか・・・
現在、仕事でベトナム潜伏中

短編 ひとりよがりの恋5

小説を読む。ベッドに横になり、ひたすらに読みふける。無理な姿勢で首が痛くなっても、エアコンが効き過ぎて鼻水が出てきても、それを拭う事なくページをめくり続ける。



小説はいい。物語に入り込む時だけ僕は僕で無くなる。何も考えず、主人公となって冒険を進める事ができる。



う・・・胃が痛い・・・



僕を小説から引き離したのは首の痛みでも、鼻水とくしゃみでもなく、胃の痛みだった。



あ・・・もう20:30か・・



僕はベッドから起き上がると、凝り固まった首を何度か回し、鼻水をティッシュで拭き取る。



何か口に入れないと・・・



そう思い立ち、食欲の無いまま外に出る事にした。このホテルの辺りは旧市街のため、細かな路地が交錯してて土地勘のない人間は地図が無いと散歩すら危うい。



近くで食堂を探す事を早々に諦め、僕は再びバイクタクシーを拾う。



「ビンコムショッピングセンターまで」



馬鹿のひとつ覚えで日本人向けのレストランやカラオケが並ぶ地区まで行き先を告げた。



昼間よりも20,000VND高い50,000VNDを払い、何処でご飯にしようかとバイクを降りて歩き出した。



ハノイ特有の湿った生暖かい空気が身体に纏わりつく。彼女の事を意識的に外しているためか、あても無く歩く。



何度もバイクや車に轢かれそうになりながら、人とバイクで溢れかえる道をゆっくりと歩んだ。



「「才華(仮名)」か・・」



昔、慣れ親しんだ看板が目に入った。この店はラーメン屋で、もやし炒めが美味しくて何度か利用していた事がある事を思いだす。


記憶だとこことは違う場所にあったはず。しかも店は綺麗になっていて、店が移転した事は直ぐに理解できた。


僕はふらっと店に入り、ビールと餃子、塩ラーメンを注文した。



ビールが直ぐに出され、すかさず一気にジョッキ半分くらいまで飲む。一息いれると、タバコに火をつけた。



餃子とラーメンを待つようにじっとしていると、再び彼女とのことが沸き上がってくる。



まず頭に浮かんだのはホテルでの会話。「僕の事、まだ好きですか?」に対する「まだ好きだよ・・」の「まだ」と言う言葉。



それと、あの豪奢なティファニーのリング。濡れない彼女の下腹部と「お客さんが居るから・・」の一言。



そしてトドメは「またね」の言葉と軽いキス。タイレディ達と重なり合うあの言葉と仕草。



コーヒーショップでの会話も含めて、なぜ?なぜ?なぜ?と言う言葉が堰を切ったように溢れ出す。



胃が再び痛みだした。いつしか、目の前にラーメンと餃子が並んでいる。カウンター越しに店員がチラリとこちらを見やっていた。



く、食えない・・・というか、食べる気力が無い。



無理してラーメンと餃子を少しだけ口にしていると、左手の棚に一冊の日本人向けベトナム情報誌が置かれていた。



そこにはカラオケ店の紹介がされている。紹介されている店の半分は僕が知らない店。そう、カラオケ店の競争は激しく、閉店と開店を繰り返しているのだ。



彼女の開いたカラオケ店はここから直ぐの場所だったと、今更ながら思い出す。僕はラーメンと餃子の大半を残し、申し訳ないと思いながら会計を済ませた。



さて・・・どこに行こう・・・



店先でひとしきり悩んではみたものの。



僕は意識的なのか無意識なのかわからないまま、彼女が開店したと言う店の方角へ歩みを進めた。



短編 ひとりよがりの恋4

僕はできるだけ興奮しないよう、心を落ち着ける。どんな答えが来ても表面上だけは気丈にしておこうと心に誓った。



「どうしてお店を出すって言う重大な事を僕に黙ってたの?」



「・・・・」



彼女は即答出来ず、言葉を選ぶように考え込んでいる。僕はどんな答えが来るのか、何も言わずに彼女が話し出すのを待つ。



「・・・言ったらダメって怒るでしょ?説明も電話じゃ難しいし、ハノイに来たら言おうと思ってた」



ダメって言われるの分かっててなんで・・そんな大事な事、恋人に相談なしで進む事なの?・・・



「お金のサポートは本当に両親なの?」


「う、うん・・・」



彼女の両親がお金無いのはわかってる。でもそんな失礼な事を口には出せない。何を言えばいいのかわからず、沈黙が続く。



そんな彼女をマジマジと見る。やはり、学生時代の頃より随分垢抜けてて、買ってあげたことがないシルバーで小さなダイヤの付いたリングを嵌めていた。



「それティファニー?」


「・・・・・うん・・」



気まずそうに答える彼女。考えてる事はお互いに繋がったのだろう。誰から?なんて、聞いても無駄な事は尋ねないことにした。



「僕の事、好きじゃなくなった?」


「ううん、好きだよ」



そこは即答する彼女。



「じゃ、なんで教えてくれなかったの?」


「・・・・」



話がまた振り出しに戻ってしまう。ああ・・何言ってんだ・・俺・・



「お店に幾ら掛かったの?」


「たくさんだよ・・・」


「Aちゃんと負担割合を決めてたの」



Aちゃんと言う子は、同じカラオケで働いていた指名ナンバー1の女の子だ。昔から性格が合わず、彼女はアインちゃんの事を嫌いだと何度も僕に言っていた。



「え?Aちゃんの事嫌いだと言ってただろ?」


「うん、でもビジネスパートナーだから・・」



よくわからない・・・嫌い合ってる子達で新しいビジネスなんか始められるのか?・・・しかも彼女は大学卒業したての23歳。誰かのサポート無しではやれるはずがない。



「本当は○○社の社長がお金出したんでしょ?」



社長と言うのは彼女をいつも指名するお客さんの事。時々その名を彼女から聞いていた僕はストレートに聞いた。



「違う!お父さんとお母さんだよ!」


「本当?」


「本当!なんでそんな事言うの?信じてくれないの?」


「・・・・」


君の両親がそんなお金持ってるわけないじゃん。と、言いたいのをグッと堪える。しかも、また話が戻りかけてる・・・



「ご、ごめん・・・」



ベッドの上に座っている二人は、再び沈黙する。エアコンの音だけが小さくコトコトとリズムをとっていた。



過去、何度もこう言った喧嘩のような事はあった。勉強しながらカラオケ嬢だった彼女はどうしても色んなお客さんと知り合う。そして客として指名を貰うために週末はデートし、夜は食事をして同伴で店に入る。



だって僕と彼女だって最初はそうして出会ったのだから。そう言った客とのコミュニケーションについて、彼女を責める事なんてできるはずもない。僕だって最初は下心で彼女に言い寄った客の一人だったのだ。



頭の中では理解している。これは彼女の仕事なんだから、と。彼女は割り切ってるんだ、と。そう言った話をする度に彼女は僕に寄り添い、「大丈夫。私には貴方だけ・・。これは仕事なんだから・・・ね?」と、荒ぶる心を鎮めてくれていた。



しかし、今日はそんな雰囲気すら無い事に心が深く沈んで行く。 考えて考えて考えると、ふと脳裏に最悪の言葉が浮かび上がる。




もう、僕たちは終わりなんじゃ・・・



「嫌だ・・・」



思わず、思考がダイレクトに声となる。



「え?」



彼女は、こちらを見上げてきた。



「僕の事・・まだ好きですか?」



絞り出すように心から出た言葉。そして、その言葉は敬語になってしまった。



彼女は少しだけ時間を置くと



「うん、まだ好きだよ?ベトナム人は恋人は一人しか要らない。貴方の事は好き。だから心配しないで・・」



俯く僕の手にそっと彼女は手を添える。暗闇の中から急に光る粒のような輝き。そして少しずつ、その光は拡がりを見せる。



僕は彼女をベッドに押し倒す。キャッと言う小さな声。顔を寄せると彼女は目をスッと閉じた。



彼女を日本に呼んで一緒に過ごした12月から、久しい5ヶ月ぶりのキス。いつものように僕は彼女の上唇を、彼女は僕の下唇を合わせ、互いに軽く吸う。唇から突然に広がる安堵感、安心感が徐々に僕の心を充してくる。



ワンピースのチャックを下ろし、そのまま下着のホックを外す。んっ・・・と言う言葉と共に彼女は腕で胸をガードする。



「なんで?恋人でしょ?」



そう言うと、彼女は腕の力を抜いた。ワンピースを肩からお腹の方向にズラすと可愛い胸が現れる。小ぶりだが整った乳房を久々に見ると、そのまま口をあてる。



「あん・・・あ・・」



漏れる吐息。そして手を彼女の下腹部に滑らした。



「だ・・だめ・・」


「どして?」



彼女は僕の手を掴み、侵攻を妨げる。僕は意に介さず、下着の中に手を滑らしクレパスに向かう。



「だめってば・・」



そう言う彼女は腕を掴み、引き抜こうとする。僕は更に力で抵抗し、指をクレパスに押し込んだ。



あれ?全く濡れていない・・・



何度も何度も指で刺激をしても、小さな声を上げるだけで彼女の下半身の反応は全く無い。



え?え?・・



こんな事いつもは無かった。どんな場面でも感度の良い彼女は溢れるくらいの愛液が滴っていたのに・・



過去何百回、彼女とセックスしたかは覚えていない。でも「濡れない」って事は一度も無かった。このショックは僕の心の闇から広がりかけた光の粒を再び消し去る。



と、同時に彼女は僕の腕を下腹部から力強く引き抜き、おもむろに起き上がった。



「お客さんと食事だから行かなきゃ・・」


「え?もう行くの?」


「うん、遅いと怒られるから・・」


「・・・・」



僕は呆然としながら彼女は身だしなみを整える姿を目で追う。



「僕もお店に行っていいかな?」


「お客さん居るから・・・」


「ぇっ・・・」



彼女が言った「お客さん居るから」の、先の言葉は耳に入らなかった。何故ならその部分までで、既に僕に対する否定なのだから。



「じゃ。行くね・・」


「あ、待って。玄関まで送る・・」



どんな時でも紳士でいようとする事が自分なりのプライドだった。



「またね・・」


僕は心の動揺を無視して靴を履いた。そして部屋を出る際にチュっと僕の口にキスをし、扉を開けた。



一瞬だがタイレディのソレを思い出す。次に会うかわからない相手への「またね・・」の言葉。今、目の前にいる彼女が発した言葉がそれと折り重なる。



部屋を出ても、僕に腕も組まず手も握らない彼女。沈黙の中、エレベーターを降りてホテルの外に出る。



雑多な騒音の中、彼女はこう言った。



「もう、ここでいいよ。あとはタクシー拾って行くから」



そう言うと、彼女は歩みを早めて僕を玄関先に置き去った。


僕は魂が抜けたように彼女の後ろ姿を眺め、背中が米粒のようになるまで立ち尽くしていた。



短編 ひとりよがりの恋3

ショッピングセンターの前でタクシーを拾い、行き先を告げる。後部座席に二人は座った。


「・・・・・」


彼女は昔のように僕に密着するように座り、頭を寄せて腕を組むような仕草はどこにも無かった。僕と後部座席の中心から均等な位置に座り、身体を外側に向けたまま、無言で車窓を眺めている。明らかに意識的なのが見て取れた。



もう僕には興味ないの?・・・



そんな気持ちが溢れだし、深いため息だけが車内を支配する。



なぜ、メガネになった事を教えてくれないんだ。なぜ、店を出した事を黙っているのか。なぜ、今日僕が来ることがわかっていて一緒に居る事を優先しないのか。なぜ、なぜ、なぜ・・・



悶々と頭の中を駆け巡る負の感情。怒りを通り越して情けなくなる。これは今までずっと僕に惚れ込んでくれていた彼女だったから、日頃からケアしなさすぎたのか。



思い出すと彼女が僕から離れて行く理由がワラワラと堰を切ったようように湧いて来る。



朝の「おはよう」と「おやすみ」は、ほぼ欠かさずしていたものの、「今日は飲みに行く」だとか、「仕事休みだからパチンコしてるよ」とかの日常の情報発信はは一切しなかった。コンタクトレンズを辞めてメガネに変えた事も。



あ・・今日の彼女と同じだ・・



飲みに行くと言えば、「女の子はいるの?」「何時に帰るの?」「家に帰ったら必ず連絡して!」こんなやりとりがいつしか僕はウザくなっていたんだ。



彼女からのメールを無視して一日中遊び呆けていた事もあった。その、反動なのか。と、ふと考える。



自業自得だ・・・



脳裏に別人からの厳しい言葉を浴びせられるような感覚に、急に寒気が襲って来る。



遠距離恋愛って、深い信頼と日頃逢えなくても好きでいられるだけの絆が必要なはず。それが無ければ長くは続かない。その絆を結ぶ為の努力を僕は怠っていた。そう・・彼女の心変わりなんてあり得ない。そんな気持ちがあったのだ。



日頃からのマメな連絡と愛の確認。これこそが遠距離恋愛のキモであり、欠かせてはいけない事の一つなのに・・・



うっ・・・



自責の念が押し寄せる。彼女が一方的に悪いわけではない。僕だって彼女の心を繋ぎとめることをしなかった結果でもあるのだ。まさに自業自得。



でも・・・



店を出すなんて大事を僕に黙ってるのはいくらなんでも酷いんじゃ無いのか?1ヶ月以上前からこの日に来るって言ってるんだからもっと色々と調整できたんじゃ無いのか?



そんな思いもぶり返してくる。



僕は大事を内緒にした彼女への怒り、彼女を長期間放置した自分への怒り、彼女に手を出したパトロンへの怒り、それを受けてホイホイ店なんか出す彼女への怒り、そして彼女とパトロンとのセックスの妄想。



様々な種類の怒りや想いがごちゃ混ぜになって、何考えてるのかわけがわからなくなる。



「ね、着いたよ?ね?」


「あ、うん・・・」



隣で彼女から声を掛けられるまで、意識は完全に脳内だけに支配されていた。



タクシーを降り、ホテル玄関までの階段を登ると綺麗に磨かれた大ガラスに階段を登る僕と彼女が写し出さらた。



なんつー顔をしてるんだ・・・僕は・・



そこには顔を強張らせ、鬼気迫る表情の自分の姿。こんな表情をした自分を過去見たことが無かった。



チェックインを済ませ、9Fにある部屋に入る。そして彼女をベッドに座らせると問いただすように正面に座った。



彼女の顔も幾分強張り、緊張している。いや、今思えば怖がっていたと言った方が正しいだろう。僕は、完全に冷静さを失いながらも、言葉を選び無機質に質問した。





短編 ひとりよがりの恋 2

Vincomセンターの横にあるオープンカフェ。平日にも関わらず、沢山の利用客が其々の話で盛り上がって居た。僕はカフェラテと灰皿を受け取り、隅にある空いたテーブルに座る。


このカフェは彼女と待ち合わせるいつもの場所だ。意味もなく辺りを見渡し、大きく息を吐き出すとタバコを咥え、火を付ける。心なしかタバコを挟む指が震えているように感じた。


これからどんな事が起こるのか。彼女はいつものように笑って僕に巻き付いて来るのか。それとも・・・



押しつぶされそうな緊張感で胸の鼓動が高まる。徐ろにボディバッグを開けて小説を取り出した。しおりの部分を開き、ストーリーの途中から読む。余り内容が頭に入らないがそれでもぼーっとしてるよりもマシに思えた。


待ち合わせ時間から20分が過ぎた頃、目の前の椅子に人が座る気配がして顔を起こす。そこにはメガネを掛けた彼女が居た。



「久しぶり」


「うん・・・」


彼女の浮かない表情が直ぐに目に飛び込んできた。


「どしたの?」


「ううん・・なんでも無い・・」


明らかにいつもと違う態度。それを認識した僕の鼓動は再び高まる。


「私、目が悪くなってね。メガネするようになったの」


「え?そうなの?」


明らかに僕の知らない情報が入って来る。そしてお互い会話が止まる。



彼女は赤いワンピースに黒いベッコウで作られた首輪をしていた。いつものピンクや水玉模様ではなく、随分大人びて見える。


髪型も日本の女の子のように巻き髪で薄っすらと茶髪になっていた。



「ちょっと待ってね」



彼女はスマホをバックから取り出すと誰かからの電話らしく、席を立って奥の方へ歩む。恐らく日本人からの電話だろう。ベトナム語がわからない僕にわざわざ席を立つ必要なんか無い。過去、電話で席を外す事なんか殆ど無かったのだ。



やばい、やばい、やばい・・・この展開はやばい・・



彼女が席に戻ると何か言いたげで言えないような、なんとも言えない仕草をする。



「なんでも言っていいよ。正直に言ってくれたらそれでいいから・・」


「あ・・・あのね・・・私、新しく店(カラオケ店)を開いたの・・」


「え?・・・」



時が止まった。彼女の言った言葉が理解できない。


「み、店?」


「うん、新しく店を開いたから忙しかった」



ば、バカな・・・たかだか就職して4ヶ月で店なんか開けるわけないだろ・・・



一番考えたくない展開が頭に湧いてくる。そう、パトロンの存在だ。僕の唇はワナワナと震え、変な引力で顔が引きつるのがわかる。



「お、お金はどうしたんだ?」


「全部親が出したよ」


「え?・・・」



確か親ってもう定年で働いていないだろ。しかも俺が一年前に学費が払えないと泣きつかれ、一部肩代わりした事だってあったのに・・



彼女は完全に嘘を言っている。



「それでね。今日もお店があるから一緒にホテルにはチェックイン出来ないの」


「なんで?お店終わったらホテルに戻ればいいじゃん」


「明日はホテルの仕事が朝早いし、警察に出すお店の資料を書かなきゃいけないの」


「・・・・」


「あ、チェックインだけならいいよ?でも直ぐにお店に行く」



とにかく、彼女と話がしたかった僕は彼女とホテルに向かった。



短編 ひとりよがりの恋 1

久々のハノイ。街の喧騒と活気ある人々。旧市街のホワンキエム湖近くにあるホテルを出る。僕はブワッとしたハノイ独特の、生暖かく少し湿った空気を懐かしむように目一杯肺に吸い込んだ。



ホテル入り口を出て直ぐ左手に置かれた灰皿前で立ち止まると、無数に走り回るバイクを眺めながらタバコに火を付る。バイクから発する煩いくらいのクラクションが耳に飛び込み、以前と変わらない風景に少しだけ安堵した。



すかさずこちらに謎のTシャツを持って歩み寄って来る傘を被ったおばさん。僕は手で「要らないよ」と、咥えタバコのままジェスチャーで応じた。



半年ぶりか・・・



タバコを半分ばかり吸うと、腰の高さまである無駄に豪奢な灰皿へタバコを押し付ける。そして先程から目の前で手招きするバイクタクシーのオッさんに歩み寄った。



「Vincomショッピングセンターまでいくら?」


「50,000VNDだ」


「高いな。タクシーと同じじゃん」


「じゃ、40,000VNDだ」


「んー・・・」



50,000VNDは250円、40,000VNDも200円。正直、金額的には大差無いのだが、久々の値切り交渉を楽しむ。



「わかったよ、30000VNDでいい」


「オッケ!」



僕はバイクの後ろに乗り込むとオッさんは爆音と共に急発進した。突然の発進で身体が後方に倒れ、バイクからずり落ちそうになる。



「お、おい・・・」


「あんたは韓国人か?」


急発進の詫びを入れる訳でもなく、オッさんは俺を韓国人なのかと聞く。しかも、こちらに振り返りながら。なぜ、僕はいつも韓国人だと聞かれるのか。タイでもそうだ。



「違う!日本人だよ!」


「日本人か!」


「うん」


「アリガト!ナガサキ、ヒロシマ、トーキョー・・・」



何言ってんだ、こいつ・・・



最初はウンウンと相槌をしていたが、知ってる日本の単語を連呼するオッさんがウザくなり、途中から返事するのを辞めた。しかも、単語を発する時は丁寧にこちらに振り返る。



だから、危ないんだって・・・



程なくしてVincomショッピングセンターに到着した。バイクを降りた先では大きな音で音楽を流し、風船を持った若い男女が踊っている。子供連れの夫婦や夏らしい服装の男女がいそいそと歩き回っている。



オッさんにお金を渡すと「アリガト!トーキョー!」と大声で手を振りながら去っていく。うん、かなりウザいがどこか憎めないオッさんだった。



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僕は小説を読むのが好きだ。小説はいい。物語に入り込むとその一瞬は何もかも忘れる事が出来る。今回の旅では4冊の冒険物の小説を持ち込んだ。逆に言えば、それが無いと心が張り裂けそうになるからだ。



ここニヶ月、僕は狂ったように小説を読みふけっていた。そう、心の動揺を本で埋め合わしているのだ。仕事の合間も、家でも寝る直前まで。



それには理由があった。ちょうど二ヶ月ほど前からハノイ在住の彼女からのメールが途切れ途切れになり、電話も来ない、掛けても出ない。それでも朝と寝る時は簡単なメールが届いていた。



それが段々とメール自体が来なくなる。いくらこちらからメールしても返事は寝る前の深夜。心配になってどうしたのか聞いてみた。



彼女はただ「忙しい」を繰り返すだけ。いつしか「愛してる」「大好き」と言う言葉も来る事は無くなっていた。



彼女は大学を卒業し、去年からハノイの日系ホテルで働き出した。そして夜は日本人向けのカラオケで働いている。僕との出会いも2年半前のカラオケ店だった。



そんな彼女の変わりようが不安を大きくする。そしてチケットを予約して今日ハノイに降り立ったのだ。この不安の真実を求めて。





ベトナム紀行 ベトナムの社会性について

今日はベトナム社会についてです。

先日東南アジア地区の日本語新聞に書いてありましたが、ベトナムは汚職が世界2位だそうです。1位はフィリピン。予想外に中国が1位かなと思いましたが、違うようです。

確かにここ、ベトナムでは何かにつけてお金が物を言う世界です。朝早くから夜遅くまで路上に立って交通整理や違反取締にたくさんの交通警察官が立っています。

ベトナムで何らかの違反で捕まった場合、その場で現金を支払って済ます場合がほとんどです。その現金はそのまま警察官のポケットマネーとなります。また、よっぽどの刑事事件じゃなければ、警察に捕まった場合約100ドルをその場で払えば許してもらう事が可能なんだそうです。

ポイントは「その場で払う」のが鉄則で、しょっ引かれた後で支払って解放してもらう場合はもっと多額なのだそうです。要するに「その場で金払って解決」ってわけです。ですから先輩出向社員に外に出る時は「何かあった時の為にその場で払えるように100ドルは最低持っているように」と言われました。

例えば、ホテルに女を連れ込んでいるところを押さえられた時、法で定める深夜営業時間外に客として夜遊びしてて踏み込まれた時、酔っ払って暴れて取り押さえられた時等はその場で解決が良いのだとか。外国人の場合、一旦身柄を警察に拘束されると保証人(身元引受人)が現れるまで解放されないらしく、保釈金も高額なんだそうです。

空港で違反物(お酒や部材のような罪が軽度なもの)が入った手荷物が捕まった場合も、お金を担当者に渡せばほぼパス出来ます。もちろん正規の罰金を支払えば良いのですが、高いですし、職員も正規料金の支払いを期待してはいません。あくまでもポケットマネーが欲しいからです。



また、企業間の取引等にも賄賂は日常的に行われています。我社でも地方政府の役人がふらっと顔を出すと、何も言わずに5000000vnd(約2万2000円)くらいをベトナム人スタッフが用意しています。

海外からの輸入(設備、材料等)も通関手続きを早めてもらうために、担当者に現金を渡します。渡さないと、ひどい場合は数カ月も手続きが放置され、事業計画に大きな支障をきたしてしまいます。

新規取引等でも交渉担当者がバックマージンを要求することは日常的に行われています。そんな現状を見てくると、「賄賂や汚職は悪いこと」というイメージはあるのでしょうが、広く一般的に蔓延していているようです。

また、経理や仕事の発注等の業務をしている人はマージンを個別にやり取りしているようです。それは日本人の知らないところで行われており、帳面上は出てこないので中々表には出てきません。私の経験した2社の場合は周囲のベトナム人からの密告で明らかになる事が多かったです。

要するに「あんただけずるいじゃん」的な発想なのかと。ベトナム人労働者は一般的にはサラリー(給与明細)を皆で見せ合い、あの人が高い・低いを誰もが知っています。低い人は会社に対して「なぜ彼よりも低いんだ、上げてくれ」と言い出します。昨日も手当の件で2名と面談しました。これも「あの人は手当がついて私には付いていない」ッて内容でした。

仕方ないことかと思いますが、お金に対して非常にシビアです。

先日も両親を連れて土産物を買いに行きましたが、母の欲しかったポーチのサイズが合わず購入を諦めたところ、店の主人が近くの別の店まで連れて行き、その店の主人と一緒になってセールスしてきます。この店で結局買い物が済んだわけですが、売上のいくらかを最初の店の主人が受け取っていました。客の紹介料ってことなんだと思います。

以前アパートを探していた時にラウンジの女の子から「あなたが検討しているアパートよりも、もっと安くて良い物件を探してくるから、予算の中から毎月1万を私にもらえないか?」と真顔で言われました。もちらん断りましたが、そんなやり取りが普通にある世界なんだと驚いた記憶があります。


ベトナム戦争が終わり、どん底からの復興途中に、そういったお金にシビアな国民性と汚職の温床が根付いてしまったのかなと思います。日本もかつてはそうだったように、ベトナムも同じ道を辿っているのでしょうか。

ベトナム紀行 食べ物について

今日はベトナムの食べ物についてです。

先にこちらに赴任している先輩方から聞いた言葉は「ベトナムでは食べれるものは何でも食べる」と聞きました。

お金が無いからそうなんだろうなと思っていましたが、いざこちらで生活してみると、それだけでは無く、それはれっきとした文化なのだと思いました。

日本では馴染みの無い食材として代表的な物は犬肉、猫肉、アルマジロ、大亀、ハリネズミなどでしょうか。犬肉なんかは非常にポピュラーで、路上で普通に売っています。
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豚肉や牛肉よりも高い肉だとか。写真では見えませんが、臓物なんかはくり抜いてあります。頭の中はわかりません。
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これは以前食べた犬鍋です。自分的には硬くて美味しくなかったです。

あと、鳥なんかも色んな鳥を食べるようで、街中で生きたまま売っています。見た目観賞用の鳥に見えますが、食べるそうです。

大きな亀は香草と一緒に丸ごと煮込んで甲羅を4等分に切ってそのまま食べます。亀はかなりの高級料理なので一般人は食べられないご馳走です。

祝いの席なんかで上流階級の人がレストランで食べるんだそうです。

あと、どうしても食べられないのがこちらの魚。鯉や雷魚なんかがポピュラーなのですが、臭いし骨が多すぎて食べれません。

見たことない、チョウザメのような魚なんかも売ってますし、スーパーによっては生簀に入れて生きたまま売ってます。あんなでかいのどうやって持ち帰るのだろうか。

魚の調理は揚げたり、煮たり、焼いたりですが、どれもぶつ切りか姿のままなので、食べにくいし、味付けも日本人には不向きな感じです。

生で食べるのは牡蠣くらいです。牡蠣は安くて美味しいですが、sevenはあたる可能性があるので火の通った物しか食べません。



こういった我々からしたらゲテモノ類も食べ方が色々で、煮たり焼いたりと一つの料理として確立されていて、「貧乏だから仕方なく食べる」のでは無くて、料理として確立されているのです。

こちらに来たばかりの人達は、自分含めてこういった食材を見て「うわー!なんだこれ!」みたいな、こちらの文化を少し下げずんだような感情を持ってしまいますが、それは失礼な感情なんだと今になって気づきました。

勿論、心の中では(こんなの食えない)とは思いますが、彼らの前では言ったり、そんな雰囲気を出すのは間違いだよなーと。

以前、ベトナム人研修生三人を日本の自宅に呼んで、刺身や日本料理を沢山ご馳走しましたが、全ての料理を一口だけ食べて、後は箸を付けませんでした。

決して「なにこれ?こんなの食えないよ」とは言いませんし、「美味しいです」と答えてくれます。

箸が進まないので美味しくないんだろうとは思いますが、態度には示さない。

そんな礼儀もしっかりわきまえた若者達でした。

食文化は国によって様々ですが、その文化をバカにだけはしないようにしたいなと思うsevenでした。


食べ物についてば奥が深いのでまたの機会にリポートします。

ベトナム紀行 ベトナムドンについて

さて今日はベトナムでのお金についてです。

まず、ベトナムでのお金の単位は「ドン(VND)」です。長く続いたインフレでお金の桁が上がり、現在流通している最少のお金は500ドン札(約2.2円)です。その他、1000ドン、2000ドン、5000ドン、10000ドン(約45円)、20000ドン、50000ドン、100000ドン(約450円)、200000ドン、500000(約2250円)ドンとなります。お札だけで10種類あります。

写真にあります200ドン札と硬貨は現在流通していません。お店でそれは使えないと言うことです。ナイトマーケットなんかに行くと、流通していない硬貨なんかがお土産品として売られていたりします。


そのお札、余りの0の多さに赴任当時は桁を数えるのが大変でした。間違って大きなお金で支払った事も何度もありました。また、日本の価値と比較するのも一苦労です。

現在の為替レートは1万円で約1800000VND ですが、計算が面倒臭いのでsevenは1万円=2000000VNDとしてざっくり計算しています。それならば、5000円=1000000VND、500円=100000VND、100円=20000VNDといった具合に、暗記さえしておけば大まかな計算は出来ます。実際は10%くらい日本円の価値が低いということも頭に入れています。

また、お札の種類が多数なので支払いではかなり困りましたが、ベトナム人たちはお札の色と大きさで瞬時に判断しています。sevenも最近ようやく色でお札を早く取り出せるようになりました。青大:50万ドン、赤大:20万ドン、赤小:5万ドン、青小:2万ドン、緑:10万ドン、緑小:1万ドン、といった具合。

5千ドン(青)2千ドン(白)1千ドン(白)5百ドン(赤)なんかは紙質が違うのと、サイズが小さいのでわかりやすいです。また、1万ドン以上のお札は透明な透かしが入っていて、光にあてて見ると薄く金額表示がされています。ホーチミン氏の顔の右横の部分です。

また1万ドン以上のお札の左側の空白もホーチミン氏の顔が日本のお札のような透かしが入っています。そんな感じで中々凝った作りになっています。

また、2000ドン以下のお札は随分前から増刷しておらず、今年から5000ドン札も増刷されないことになったそうです。今後何年かの間に5000ドン以下のお札も流通しなくなるのでしょう。

硬貨が無いのは楽ですが、桁が多いのが難点ですね。いつしか桁も修正するとは思いますが・・・

ベトナム紀行 信仰(宗教観)について

ネタも無いので、不定期にベトナムの魅力を少しだけ皆さんにもお裾分けしたいと思います。

今回はベトナムの信仰(宗教観)についてです。

ベトナムは人口の85%くらいは仏教、10%くらいがキリスト教、5%くらいがホーチミン近隣に信者が多い「カオダイ教」という新興宗教です。

これはハノイ大聖堂。以前行った時はミサが行われていました。
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Thaiほど熱心な仏教信者は少ないものの、各家庭やお店には必ず仏棚があり、朝に線香をたいてお祈り?していますし、年に何回かはお寺に参拝するのが普通だそうです。ですから信仰心という点では日本と平均的に比較すればベトナム人の方が少しだけ信仰深いと言えるでしょうね。

あと、ベトナムにも神社が至る所に存在し、孔子などの中国の偉人や、伝説の亀等様々な神様が祀られています。また、ベトナム建国の父「ホーチミン」氏も神様と同等の扱いで祀られており、彼の遺体が眠るホーチミン廟には毎日沢山のベトナム人達が施設を訪れ、ご遺体を見学に来ます。

これがホーチミン廟。中には銃剣を持った警察官が到る所で無表情に立っています。修学旅行シーズンになると3時間待ちだとか。この日も数珠繋ぎで順番待ちしている学生たちが沢山いました。ちなみにご遺体は蝋人形のように綺麗に安置されていました。
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私も両親が来た時にホーチミン廟を見学しましたが、その際、ベトナム人ガイドさんが話す、ホーチミン氏の人物像に対する熱い説明に、感動すら覚えました。いやー、彼の生涯を聞いていると、いかにベトナム国民に愛され、敬愛されていたのかがよくわかります。

ホーチミン氏は「ホーおじさん」と国民から慕われ、生涯独身を貫き、質素な生活を好んだのだそうです。Thaiの王様程ではないものの、ハノイの街中でも到る所にホーチミン氏の顔看板がありますし、お金に描かれているのも全てホーチミン氏です。



あと、面白いのはお寺は全て漢字が使われているのですが、ベトナムでは現在漢字は使われておらず、1800年代に、当時のフランス人を中心に、アルファベットを基本とした新たな言語を作り、それをベトナム語として言葉を変更したそうです。

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ですからお寺の漢字を読める人はほとんど居ないのだとか。本々中国文化の影響が強い地域だったのですが、列強時代にフランスの植民地となって、西洋と中国の文化が融合したような形態が現在のベトナムです。


こちらで暮して見た感じ、若者たちの信心はそれほど深そうではなく、主に年配者達が慣例に従って宗教行事やお祈りをするといった、日本の形態によく似た感覚を受けました。

農村部に行くと宗教的な行事は日本と同様、かなり浸透していて派手なお祭りや伝統に従った様々なイベントがあるようです。ただ、祭りの華でもある爆竹は法律によって10数年前に禁止され、我々が夏の夜に浜辺なんかで行う、花火すらも上げれないのが少し可哀想だなーと思います。

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